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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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客人たちの喝采により舞台は幕を閉じ、夜は緩やかに深みを増してゆく。
壇を降りた少女を待っていたのは「洗礼」ともいえる人の群れ。
若く愛らしい当主を囲むようにやってくる人々は、
ひとり心の中で悲鳴を上げながら大慌てしている彼女を置いてけぼりに
名を告げ、祝辞を口にしてはその白い手の甲に忠誠を誓う。
慣れない環境での慣れない待遇に、先程までの威厳は彼方。
見かねたイアンが彼女に付くまで彼女は道に迷った子供のように震え続けていた。

「大丈夫ですかエレイン様。なんと言えばよいのでしょうか……
 先程の演説が奇跡としか思えないくらいに震えておいでですが」
「だだだだだだってええええ!こんな、こんなたくさんの人にわらわらされるのはじめてで!」

顔はかろうじて笑みを作れてはいるものの、目頭にはうっすらと涙が滲み始めている。
緊張の糸が雁字搦めに彼女を縛り付けている中、一人の青年がやって来た。


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待ち望んだその花を愛でに。
(続きにたたんでおいておきます)


⇒7/9 0207 修正



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少女は迷っていた。
これから自分が立つ舞台は、自分を狙う魔の手が迫っていることを知っていた。
もしかしたら他の誰かを巻き込んでしまうかもしれないことも。
それでも行かなければならないことを知っていた。
人々の目に映る不幸な終焉を砕かずにはいられない、己の衝動。
ただそれだけが彼女を舞台へと押し上げる。

「……」
(主よ。緊張しているか?)

傍らに控える緑衣の男が、不安げに俯く少女へと声を掛ける。

「大丈夫です。行きましょう」

笑顔を作って、少女は先を見つめた。
重々しい扉の前、深呼吸ひとつして少女は足を踏み出した。



「…………つまんなーい」

会場を一瞥し、ステラは退屈そうに唇を尖らせていた。
襟元や袖口にフリルを施した上品なブラウスに、お気に入りの黒いスカート姿でパーティーにやって来た夜色の少女は
兄に言われた通り会場の隅でお行儀よく椅子に座らされている。
会場には彼女と同年代の少女もちらほらといるが、如何せん思考の幼いステラとはそりが合わず、だからと言ってより低い年齢の者もいない。
ステラからすれば、大人だらけのこの場所に居続けることは、自分に非がないにもかかわらず長い説教を聞かされ続けているのと同じだった。
ぱたぱたと足を揺らせて退屈を主張するも誰一人構ってなどくれやしない。

「つまーんないっ!」
「仕方ありませんよ。お兄様から指示があったでしょう?」

周囲の大人たちの視線も気にせず声を張り上げたステラを優しく制止したのは彼女の付き人だ。
足首近くまで伸びた髪は艶やかな烏羽色、瞳は翡翠に似た滑らかな碧色で、
女性にしては少し高めの身長とすらりと伸びる細い肢体は黒のパンツスーツにより殊更細く見える。
隣に座す少女の人形めいた愛らしさとは対照的に、
どこか庶民的な美しさを醸し出すその女性が、かつて舞台に花を添えていた歌姫、
ヴィヴィアン・ウィートリーであることに誰も気づいてはいなかった。
ヴィヴィアンは上目遣いで退屈を訴えるステラに微笑みかける。

「でもヴィヴィ先生、ここでじっとしてるのつまんないよ。
 お庭に出ちゃダメ?さっきお庭を見た時にね、きれいな薔薇が咲いていたのよ!
 赤い紅い薔薇なの、先生、薔薇の花好きだったでしょ?行こう、行こうよ」
「まあ、薔薇ですか?それは素敵ですわ。でも、まだ我慢していてくださいね。当主様がいらして、ご挨拶が終わったら見に行きましょう」

化粧っ気のないそばかすが残る顔に少女じみた微笑みに、
ステラも反論できなかったのか、渋々同意の言葉を漏らして俯いた。
監禁されていたに等しい彼女にとって、数少ない理解者たるこの女性の言葉は
実の父親の言葉よりも強く重く絶対だ。
ステラは仕方なく、どれが「当主様」だろうかと人の山を眺めることにした。
とはいえ、彼女はここに連れてこられただけで当主がだれかなんて知るはずもない。
ましてや当主が女性であることも、自分の兄がその当主と親しい間柄であることも、
ステラにしてみれば興味がないし、知る由もない。
せめておとぎ話のような、素敵なダンスパーティーだったならよかったのに。
深く息を吐き出したその時、一人の青年の姿が見えた。

(――――!あの人!)

声を殺して、視界に捉えたその人物をじっと見つめる。
幼い頃に枕元で語られた物語通りの容姿、風格。傍らの少女に向ける微笑みの温かさ。
人混みの中に見つけたその男に、ステラは喜びと同時に懐かしさと虚しさを感じた。

(王子様!王子様だわ!)

声に出しそうになったのをぐっと堪えて、青年を凝視する。
人を避けるように遠く、ゆっくりとどこかへと向かうその背を見つめ、
その人が自分の探し求めていた人だと確信する。
ステラはヴィヴィアンが眼鏡を外して余所見している間に
音と気配を極力消して、人の合間を猫のようにすり抜けていった。







蒼空
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