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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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「…………つまんなーい」

会場を一瞥し、ステラは退屈そうに唇を尖らせていた。
襟元や袖口にフリルを施した上品なブラウスに、お気に入りの黒いスカート姿でパーティーにやって来た夜色の少女は
兄に言われた通り会場の隅でお行儀よく椅子に座らされている。
会場には彼女と同年代の少女もちらほらといるが、如何せん思考の幼いステラとはそりが合わず、だからと言ってより低い年齢の者もいない。
ステラからすれば、大人だらけのこの場所に居続けることは、自分に非がないにもかかわらず長い説教を聞かされ続けているのと同じだった。
ぱたぱたと足を揺らせて退屈を主張するも誰一人構ってなどくれやしない。

「つまーんないっ!」
「仕方ありませんよ。お兄様から指示があったでしょう?」

周囲の大人たちの視線も気にせず声を張り上げたステラを優しく制止したのは彼女の付き人だ。
足首近くまで伸びた髪は艶やかな烏羽色、瞳は翡翠に似た滑らかな碧色で、
女性にしては少し高めの身長とすらりと伸びる細い肢体は黒のパンツスーツにより殊更細く見える。
隣に座す少女の人形めいた愛らしさとは対照的に、
どこか庶民的な美しさを醸し出すその女性が、かつて舞台に花を添えていた歌姫、
ヴィヴィアン・ウィートリーであることに誰も気づいてはいなかった。
ヴィヴィアンは上目遣いで退屈を訴えるステラに微笑みかける。

「でもヴィヴィ先生、ここでじっとしてるのつまんないよ。
 お庭に出ちゃダメ?さっきお庭を見た時にね、きれいな薔薇が咲いていたのよ!
 赤い紅い薔薇なの、先生、薔薇の花好きだったでしょ?行こう、行こうよ」
「まあ、薔薇ですか?それは素敵ですわ。でも、まだ我慢していてくださいね。当主様がいらして、ご挨拶が終わったら見に行きましょう」

化粧っ気のないそばかすが残る顔に少女じみた微笑みに、
ステラも反論できなかったのか、渋々同意の言葉を漏らして俯いた。
監禁されていたに等しい彼女にとって、数少ない理解者たるこの女性の言葉は
実の父親の言葉よりも強く重く絶対だ。
ステラは仕方なく、どれが「当主様」だろうかと人の山を眺めることにした。
とはいえ、彼女はここに連れてこられただけで当主がだれかなんて知るはずもない。
ましてや当主が女性であることも、自分の兄がその当主と親しい間柄であることも、
ステラにしてみれば興味がないし、知る由もない。
せめておとぎ話のような、素敵なダンスパーティーだったならよかったのに。
深く息を吐き出したその時、一人の青年の姿が見えた。

(――――!あの人!)

声を殺して、視界に捉えたその人物をじっと見つめる。
幼い頃に枕元で語られた物語通りの容姿、風格。傍らの少女に向ける微笑みの温かさ。
人混みの中に見つけたその男に、ステラは喜びと同時に懐かしさと虚しさを感じた。

(王子様!王子様だわ!)

声に出しそうになったのをぐっと堪えて、青年を凝視する。
人を避けるように遠く、ゆっくりとどこかへと向かうその背を見つめ、
その人が自分の探し求めていた人だと確信する。
ステラはヴィヴィアンが眼鏡を外して余所見している間に
音と気配を極力消して、人の合間を猫のようにすり抜けていった。








「ぅぅぅ~~~っ」
「……靴擦れだな。すまない、もっと早く気付けばよかった」

学友達との再会を終えた後、アーサーは会場の片隅にあるソファーにポーシアを座らせていた。
というのも、歩きながら彼女が妙にぷるぷる震えているところを、
「ああ、やっぱりドレス姿もいいな。綺麗だし、何より可愛いし」
と脳内のみ平常運転で彼女をほっこり見ていたのだが、
ふと、ヒールではあるものの歩き方が変だということに気付き、すぐさま移動したのだ。
脱がせたヒールの下には、靴の縁に添って赤くなっていた白い足。
薄く丸く膨れている箇所を優しく撫でて、アーサーは小さく呪文を呟く。
人目につかないように小さく展開した紋章が手のひらで薄く光を漏らすと
靴に擦れるたびに感じていた痛みがすっと消えて行った。

「痛みは引いたか?」
「あ、う、うん……」

角度の都合で何をされたのかさっぱりわからなかったポーシアが
なにしたの?と首を傾げて足を――その先で何かをしているアーサーを見ると、
彼は短く「おまじないだ」と答え、ポケットから白いハンカチを取り出した。
三角に折って、足首で結ぶと靴を再度履かせて、赤くなった部分が隠れているのを確認する。

「違和感があるだろうし不格好だが、これで多少痛みは和らぐはずだ。
 すまないがもう少し我慢していてくれ」

やんわりと微笑むと、ポーシアは分が悪そうにアーサーから視線を逸らす。
何故だか、普段と大して変わらないはずのこの男が三割増しくらい紳士的に見える。
自分や彼の服装のせいか、この場の雰囲気のせいなのかは知らないが、
何かしらが原因となって普段通りに振る舞えない。
胸の中に蟠る違和感を今すぐにでも吐き出したいのに、喉の先に出てこない。
そんな彼女の視界の先に、ひとりの少女の姿が映る。
踊るような足取りで客人達の合間を潜り抜ける少女はとても楽しそうで、
ヒールを脱ぎ捨ててどこかで踊りだしてしまおうか、など考えて小さく笑う。
そして気づく。
踊るような足取りで客人達の合間を抜け出したその少女が、
今まさに此方へと向かって全速力で迫ってきていることに。

「お、う、じ、」
「ん?」「あれ?」

アーサーが振り返った先には真冬の夜空にも似た、深く鮮やかな紫紺。
満面の笑みを浮かべて駆けてきた少女はステップを踏みながら一言一言を跳ねるように歌い、
アーサーへ向かい勢いを保ったまま跳躍。

「さまーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「Σな、なななな!?」

そのまま抱き締めるようにタックルして押し倒した。
最早言葉にすらなっていない悲鳴を上げて、少女が繰り出す渾身の抱擁を受け止めると
アーサーは無様に背面へと倒れ、ついでに頭を椅子の角で打った。
思わぬ襲撃に足をひっこめて避けたポーシアは難を逃れたものの、
真っ向から受け止めたアーサーは強烈なダメージを食らったようだった。

「だ、誰だ、なんだ!?」
「王子様!王子様だわ!」

アーサーが強打した箇所を撫でながら身を起こせば、
14,5くらいの少女が自分の膝の上できゃあきゃあと騒いでいる。
かと思えば、はっと息をのむと少女はアーサーの膝の上に座り込んだまま、
後頭部の痛みに潤んだ青紫の瞳を至近で覗き込む。

「――うん、本物の王子様だわ!冬の湖の瞳に、小麦の髪。やっとみつけた!」

きゃあっ。っと感嘆の声を上げてすり寄る少女に、
アーサーはどう反応すればいいのかわからないまま、されるが儘になっていた。
幼少期から刷り込まれるように教え込まれた騎士道精神が邪魔をして、
この無遠慮な少女を邪険に扱うことができない。
何やら若干むかっとした気がしつつ、アーサーと少女を睨むように見つめていると、
曙橙の視線に気づいたのか、兎の耳のような髪飾りを揺らして少女がポーシアへと向き直り、

「……」

凝視。
アーサーに抱き着いたまま、少女は無言でポーシアの目を見つめた。
真っ直ぐに突き刺さる少女の視線に耐えきれず目を逸らしたポーシアに
彼女は花綻びるような笑顔を向けた。

「素敵!人魚姫様も一緒なのね!本当に、本当に素敵だわ!
 椅子に座っているのは足が痛むから?ああ、まだ歩くことは苦手なのね。
 やっぱり歩くと、硝子の破片が突き刺さったように痛いの?」

アーサーの肩から身を乗り出して、ポーシアの足に触れる。
何の許可もなく、無遠慮に触れられて思わず後退りしてしまったが、
どうやらその反応を見て少女は勘違いながらに納得したようだ。
満足そうに笑みを浮かべて、ポーシアを見つめた。
そんな少女の様子と言動に、アーサーはある一つの物語を思い出す。
人魚姫と王子、登場人物二人と共に出てきた比喩を脳裏でなぞると、

「……君は、『人魚姫と願いの王子』が好きなのか?」

少女に優しく、出来るだけ優しく問いかける。
すると少女の笑顔がよりまぶしく輝き、小さな唇からするすると言葉が流れ出した。

「ええ、大好きよ!王子様と人魚姫は、ずっとずっと幸せなんですもの。
 幸福な終焉(ハッピーエンド)は、すごくすごく、満たされるの。
 おとぎ話の世界で生きていけたら、きっとステラも幸せになれるわ。
 だからね、だからね、ステラはステラの王子様を探してるの」

余程好きだったのだろう。猫のように、三日月のように琥珀の目を細め、
両の手で自分の頬を包み込むように添えると、うっとりと蕩ける様に笑む。
彼女の目に、終焉は見えない。

「――君は、」
「ステラさん!ステラさんどこですか!」

アーサーの問いを裂くように聞こえてきたのは女の声。
聞き覚えがあるその声の主を思い出そうと眉間に皺を寄せてると、
膝上の少女は小さく「しまった」と呟いてアーサーからぱっと飛びのいた。

「あ、ごめんなさい王子様。あたし、行かないといけない」

慌てた様子で立ち上がり、きょろきょろとあたりを見回した後、
少女はヒールを鳴らしてくるりと髪を靡かせる。

「王子様、人魚姫様、また会いましょうね!今度は素敵な歌姫もつれてくるわ!」

最後に無邪気な笑顔をふたりへと向けると、ひらりとスカートを翻し、
少女は楽しそうに手を振って声のした方へと走って行った。
嵐が過ぎ去り、ようやっと訪れた静寂に二人揃って息をつき、
最初の疑問を口に出したのはポーシアだった。

「……今の子、なに?」
「ステラ、と名乗っていたな。おそらく分家の娘だろう」

ようやっと立ち上がれたアーサーはスーツを軽く払って、ポーシアの隣に座る。
少女の襲撃は予想よりも疲労を呼んだのか、ソファーに座り込んだアーサーは
先程まで誰に対しても笑顔を崩さなかった彼の眉間には深く皺が寄っていた。
背もたれに寄りかかり、深く深く溜息ひとつ。

「しかし王子様、とはな。まさかそんな風に呼ばれるとは思わなかった」
「……私、人魚姫って呼ばれたんだけど」
「詳しくはまた今度絵本持ってきて読み聞かせてやるよ」

ぽむりと頭に置かれた手を、ポーシアは不機嫌に払いのけた。
その時、会場に声が響く。



『皆様、ご歓談中のところ失礼いたします。
 カメロット家新当主、エレイン様がお見えになりました。
 どうぞ拍手でお迎えください』



※ステラちゃん襲撃。そして本編へ。
 人魚姫と願いの王子については現在執筆中ですので気長に待っててください。
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