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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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アストラット侯爵一行は応接室に通され、イアンからのもてなしを受けた。
分家の領地で採れた上質の茶葉で淹れた紅茶は侯爵の舌も唸らせ、
用意されていた茶菓子の数々は見目にも美しく、客人達を楽しませた。
(まさかこの茶菓子がかの有名な戦闘狂の女騎士が作ったとは思うまい)

その間、エレインは別室にて待機中だ。
数人の見張りをつけられた状態で、同じように菓子と茶を振舞われている。
イアンによるもてなしは、花婿選びのふるい落とし最終段階だ。
宝物庫の前に居座る番人の問いかけと同じく、他愛もない話の中に罠を仕掛ける。
それらを掻い潜った者だけがカメロットを手にする資格があるのだ。
彼の慧眼をもってすれば、と言えば言い方はいいが、
イアンの男を見る目は確かなものではあった。

が、イアンは彼らを読みかねていた。
兄たるアルフレッド侯爵はまだ読みやすい方だ。
巧妙に意図を隠してはいるが、目的はカメロットの財か、武力だろう。
或いはティンタジェル領自体を純粋に欲している可能性もある。

弟の方はどうだ、全くと言っていいほど目的を読むことが出来ない。
婚約の際に彼らへ与えられる領地についてを切り出した際でさえ、
彼の反応は希薄で、興味を示す様子は見られなかった。
見合い相手に関する話へ切り替えても反応は薄いまま。
で、あるにも関わらず、彼はイアンが話すあらゆる話題に対し静かに応え、
恐ろしく適切に、彼の望む答えを提示し続けてきた。
隣に座っていた兄さえも、その様子には驚いているようだった。

(薄気味悪い野郎だ。正確に欲しい答えを持ってきやがる。
 封鎖してるはずのティンタジェル領の情報も。どういうことだ?いい情報屋でも雇ったか?)

イアンは対話の最中でも脳裏で一人思考を繰り返す。
メッキがはがれたような口振りは、普段姉の前でしか出さない刺々しさと乱暴さを孕み、
けれど決して表面に出すことはないまま値踏みを続ける。
話題をさっきから気まずそうに茶菓子を摘まむ従者の青年の視線の先、
中庭でつぼみを開き始めた薔薇の花へとすり替えながら。

(手段を選ばず手に入れたいものを手に入れる、ってことか。――いいじゃねぇかよ。
 我らのご当主様がどうかは知らねぇが、そういう奴、俺は嫌いじゃないぜ)

表面上はにこやかに、従者の青年を労わるかのように優しく、イアンは微笑を作った。






男は既に動きだしていた――動き続けていた。
屋敷へ足を踏み入れた時から、屋敷に辿り着く前から、
エレイン自身の口から婚約話を聞いた時点から動き続けていた。
彼は自分でも信じがたいほどに、あの能天気な少女に惹かれていたのだ。
故に叶えたかった。彼女の淡くも少女らしい望みを。
否、これから叶えてやるのだ。己の手で。
彼女の心中を知ったその時から男はただ盲目的に計画を進行していた。

男は慎重に、音もなく廊下を歩む。昔からの癖だ。
彼女がいる部屋の場所は屋敷の警備に任されている内通者から聞きだしていた。
あとは他の何人にも悟られないように彼女を部屋から連れ出し、
彼女が望むような結末を作る。そう、彼女が望む幸福な結末を。
そのためならばカメロットがどうなろうが、自分の立場がどうなろうが、
男にとってはどうでもよかったのだ。
行き来するメイドや執事の動きに気を配りながら男は進む。
広間の階段を上り、二階。彼女が待たされているのはこの階の最奥だ。
さらに廊下を直進した後、角を曲がる手前、人の気配を感じて足を止める。
部屋の手前に誰かがいる。当然だ。警備の類を配備していない方がおかしい。
男は気配を殺し、角から様子を伺う。部屋の前には深緑色の人影が一つ。
オルガ・サグラが立っていた。

オルガ・サグラに与えられた任務は二つ。
ひとつはエレインが賊に襲われぬように監視すること。
そこには発見した賊を捕縛、最悪殺害することすら含まれていた。
角から此方を覗き込む人影に気付くと、それをじっと見つめる。

「…………」

無言のまま、オルガは男を見る。
男も角から姿を現し、オルガの目を見返した。
かつて彼の顔を覆っていた鉄仮面はとうに剥がれている。
深緑のフードの下、浅黒い肌に浮かぶ刃の眼光は翡翠色に燃えている。
オルガは男の姿を全身くまなく確認した後、もうひとつの任務を脳裏に浮かべる。

「…………」

オルガは言葉にするかわりに行動で示す。
男に対して一礼すると、自分のすぐ後ろにある扉を親指で差した。
発することを忘れたままの声で『ここにいる』と、そう呟く。

もうひとつの任務、依頼者は他ならぬ目の前の男であった。
エレインを、彼の主人をこの狭い屋敷から連れ出すための内通者。
主人と団長の二人に対して以上に忠実であるはずのこの忍びが何故二心を抱いたのか、
至極単純な理由だった。彼の主人たちはこの先に待つ結末を望んでいる。
故に手を貸すのだ。

「……他に人は?」
「……(隣室に2人、眠らせてある。ただの薬だ、問題ない)」
「そうか。彼女は?」
「……(茶を飲んでいる。そろそろ退屈になる頃だろう。逃げる時は、此方の部屋から)」

彼の身振り手振りから、室内に彼女以外の人間がいないこと、
脱出経路となる部屋の場所を改めて聞き、男は小さく「恩に着る」と呟いた。
オルガはそれに、珍しく微笑を浮かべ部屋の前から立ち去る。
先程男が曲がったその角の先に立つと、他に賊が現れないものかと警戒を再開した。

男は扉に手を触れる。
この先で、彼女は名しか知らない婚約者候補を待っている。
ここに訪れる人間がその相手か、あるいは身内の誰か程度に思っているはずだ。
夢見がちな割に、それらをいともたやすく夢と割り切り、諦める少女だ。
これから何が起こるかなど、想像はすれど実現するとは思ってはいないだろう。

男は小さく笑みを浮かべる。
少し力を入れただけで、扉は彼を受け入れた。


※ろまんす。
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