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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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4月の眩い太陽が燦々と馬車道を照りつける。
第一階層の上空には雲の多い青空が広がり、道行く者達を容赦なく照らす。
真夏の暑さに比べれば穏やかなものではあるが、天候の移り変わりの激しい季節だ。
寒暖差と共に襲い来る日差しはじりじりと肌を焼き、体力を奪う。

日傘を差すどこぞの婦人の横を二頭立ての馬車が通り過ぎた。
完全箱型客室の閉じた扉には「髑髏を抱き祈る乙女」が繊細な筆遣いで描かれている。
古き良きランスブルグ貴族であるアストラット侯爵家の紋章だ。
行き先はカメロット伯爵家本邸。彼らはこれから非常に重要な交渉に行くのだ。

馬車の中では三人の男が沈黙を破ることなく座っていた。
ひとりは現当主である長男アルフレッド、目を瞑ったまま腕組みをしている。
ひとりは出戻ったばかりの三男ルーファウス、眠たげな視線を外へと投げている。
ひとりはルーファウス付きの従者ウィリアム、緊張感と馬車の揺れに顔は青ざめるばかりだ。
蹄が道を叩く音を延々聴きながら、三者はただただ静かに到着を待っていた。


が、その沈黙をアルフレッドが破った。
瞼を持ち上げれば、刃のように鋭い紅い視線が弟を射る。

「ルーファウス、わかっているだろうな?」
「……何を」

どこか凶器めいた鋭さを保つアルフレッドの言葉にルーファウスは無気力に返す。
視線は依然小さな窓の外へと向いたままだ。決して兄を恐れているからではない。
ただ興味がないだけ。兄の言葉も視線も、彼からすれば瑣末事だ。
そんな弟の態度に一抹の不安と憤りを感じながらも、兄は感情を殺した声で続けた。

「カメロット伯爵の事だ。機嫌を損ねるような真似はするな。絶対だぞ」
「ああ、その事か。ならば心配はいらない」

ルーファウスは波紋ひとつ立てぬ水面の如く、静かに兄へと答える。

「今回の件について、私と兄上の利害は一致している。
 私はカメロットを、貴方は彼らの所有する領地をそれぞれ欲している」
「そうだ。旧ティンタジェル領には多くの可能性がある。
 それにカメロットと関係を持っておけばあの厄介な分家連中も我々の傘下に加わろう」
「それが兄上の望み。私は新たなる当主と、かの凄惨なるカメロットの邸宅を手に入れたい。
 欲する物は違えど、手段は同じだ。眼前に吊るされた獲物を取りそこなうようなミスをする気はない。
 任せてくれればそれでいい。兄上は茶でも飲んで待っていてくれ」

表情を変えることなく、視線も合わせようともしないままルーファウスは会話を切った。
アルフレッドからすればこの見合いは不安要素しかない。
色恋どころか政経にも全く興味を示すことのなかった三男がこの話を持ちかけたのが2か月前、
10年前に起きたカメロットの惨劇に興味を持っていたのは知っていたが、
まさか新当主との縁談話を持って来られるとは思ってもいなかった。
わざわざ旧ティンタジェル領の現状を事細かに調査し、資料を纏めてくるとも。
資料については彼ひとりでは調べきれないような事柄も記載されていたが、
この際誰がどう調べてきたかなどはどうでもいい。

(カメロットとの繋がりは、実際我々にとって有益だ)

兄は弟の企みを知らない。知らずとも、協力する価値はあった。
かつての惨劇――女王騎士アリッサム率いる仮面の軍勢のランスブルグ襲撃により、
アストラット家も相応の痛手を負っていた。
幼かった当主候補たちに代わり本家の地位と領地を守り続けたカメロット分家の力は
未だ完全には復旧しきれていないアストラット家立て直しのためにも必要だった。
新たな領地と新たな力、どちらもを手に入れる可能性が目の前にある。
問題は、悍ましき弟にすべてを託さねばならないこと一点。

(言うからには、うまく小娘を躍らせてこいよ、愚弟)

アルフレッドは外を見続けている弟を一瞥し、再び瞼を閉じた。

一方、険悪な空気に胃を痛めているのはウィリアム・アークラル。
唯でさえ深く刻まれた眉間の皺をさらに深め、彼は必死に祈る。

(……ああ、エレイン。どうか無事でいてくれ)

このウィリアムという男はエレインを知っていた。
正確に言うならば、第三階層の小さな町にいた牧場の娘を知っていた。
彼の祖父は町はずれの邸宅を一人で管理する庭師であり、
彼もまた一時は祖父同様に庭師を目指して知識を深めていた時代があった。
エレインとは時折森へ薬草摘みに出かけてはその知識の一端を彼女に教えており、
時折爆裂カボチャの襲撃を受ける程度には彼女と親しかった。
どこか危なっかしい彼女を、妹でも見るかのような目で見守り続けていたが、
原因不明の重病により上層の施療院へと行くことになってからはまともに会えないままでいた。

偶然にも、エンドブレイカーとして目覚めた彼は先の惨劇の際に彼女と再会し、
互いの都合が合う時にあって、とりとめのない話をするようにはなっていた。
が、まさか彼女の婚約者候補に己の主人が立候補するとは思ってもいなかったようだ。

(惚れた相手がいる、と言っていたな……)

思い返すのは、婚約者選びに対してあまり乗り気ではない彼女の笑顔。
かつて後ろをついて来ていた少女の笑顔とはかけ離れた寂しそうな作り物の笑顔だった。
これも自分で選んだ道の結果なのだからと受け入れようとはしていたが、
弱気で内気な彼女の事だ、そう簡単に踏み込むことが出来ずにいるのだろう。

(どうにか奇跡が起きないものか)

彼女の身を案じるウィリアムの胃がその場の空気と慣れない馬車に限界を感じ始めた時、
馬車が大きく揺れて停車した。
御者が扉を開き、順番に下車すれば目の前には鉄の柵門。
伯爵という地位の割に慎ましやかな屋敷と、隅々まで手入れされた庭園、
10年前の惨劇から姿を変えぬままのカメロット伯爵の本邸が彼らの前にあった。
ルーファウスが日差しの強さに眉を顰める中、
他二人の視線は扉の前に立つ人影へと吸い寄せられていた。
深みのある赤の髪に、金色の柔らかな眼差し、慇懃無礼という言葉に服を着せたような佇まい。
しかし一部の隙も見せぬ威厳を隠し持った男が彼らに微笑を向ける。

「御機嫌よう、アストラット侯爵様。ようこそカメロットへ」

男は恭しく一礼し、彼ら三人を招き入れるべく、鉄門を開いた。


※侯爵家パート。
ウィリアムは金木犀の館に住んでる庭師のじいちゃん、ウォルターの孫です。
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