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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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魔女を倒し、その裏に蠢いていた存在すらも倒し、
この世に平穏が訪れたその後。
エレインは兄夫婦と同じようにランスブルグへと戻ってきていた。

正確な場所は第一階層――カメロット本邸。
為すべきことが終わった今、彼女はあるべき場所へと帰らなければならなかった。
何より、彼女にはひとつ決めなければならないことがある。
それは生涯の伴侶、すなわち彼女の夫となる人物だ。

一度は没落したカメロットの名を再興するためには、それなりの力ある家の支援が必要だ。
エレインの留守を任されていたイアン・アヴァロンはいくつかの家に交渉をし、
彼女の未来の夫……否、カメロット伯爵家に婿入りしてくれる人材を探していた。

亡きティンタジェルの領地を条件に提示したこともだが、
かつてのパーティーでの演説でエレイン自身を気に入った者達もいたようで、
我が子を婿にという良家からの声も少数ながら存在していた。
イアンは彼女の性格等も考慮したうえで彼らから数人の候補者を選び、
数か月をかけて彼女と対面させ、ふるい落としていった。

エレインもそのことは知っていた。重々理解していたつもりだった。
だが実際に選ばれた相手と会っていくにつれて不安ばかりが募っていった。
生まれも育ちも第三階層である彼女からすれば、
婚約者候補の面々は皆本来ならば手も届かないような存在だった相手だ。
そんな相手を前に、後ろめたい気持ちや己を卑下する心が増大する。
結果、彼女は二十歳の誕生日を迎えてなお、婚約者不在のまま。
相手を決めあぐねたまま現在に至るのだった。

積み重なる申し訳なさと己の不甲斐なさに顔色は沈む。
同時に、嫌といいたくなるほど強い願望が彼女を蝕むんでいた。
一度でいい、どうしようもなく会いたい、と。





想う人がいた。
それは決して印象の良い出会いではなかったが、彼女の心を大きく揺れ動かす出会いだった。
水面下で密やかに芽吹き、音もなく成長した感情は現在彼女の内部に深く浸食している。

第一階層へと押し込まれた今も、ふと想い人の姿が瞼の裏に過ぎる。
端正な顔立ちに張り付く他者に対しての無関心がありありと見える無表情。
血色の悪い肌に浮かぶ血色の月を思わせる濃緋の瞳、低く脳を揺らす声。
「エル」と、あまり呼ばれない己の愛称を呼んで、勝手に手を引いていく後姿。
自分勝手で我儘な人だった。だが、己の欲望に忠実で、純粋で、自由な人だった。

(会いたいなぁ)

窓辺に座り、声には出さずに想う。
今の彼女は髪の先から足のつま先まで丁寧に磨き上げられた「カメロット伯爵」だった。
彼女のためにと誂えられた薄青のドレスを身に纏い、薄く化粧を施され、
瞳と同じ菫色をした宝石の首飾りを着けて、麗しくそこにある。
最早第三階層でのうのうと田畑を耕し、馬の世話に明け暮れていた田舎娘の姿はそこにない。
双銃を手に戦場を駆け回り、猛々しく凛々しく戦っていた天誓騎士の少女でもない。
幼少期に憧れた「お伽噺のお姫様」に似たその姿は
エレインにとって自分ではないように感じて居心地が悪かった。
そんな感情は表面には出さない。以前と比べて表情を作るのは上手くなっていた。

(会いたいなぁ。元気にしてるのかな。
 ……きっとまだ寝てるだろうな、日の出てる時間は、苦手だもの)

彼との別離は一か月ほど前だ。すべてが終わり、再び婿探しのために上層へ行く前。
最後になるかもしれないからと彼のもとへ走った。
自分の気持ちを伝えたかったのかもしれない、檻の中へと戻るその前に。
過去形となるその感情を伝えて、自己満足に浸りたかったのかもしれない。
しかしいざ対面すれば相手の暴力的なまでの身勝手に振り回されて
結局想いを伝えることはできないまま、別れの言葉を交わしてそれっきり。
以来エレインは下層に下りることも必要以上に人に会うこともないまま、
時間の許す限り詰め込まれたスケジュールをただこなしていくだけの日々に浸っていた。

「失礼します、エレイン様」

二回のノックの後、部屋の扉が静かに開く。
イアンは扉の手前で優麗に一礼し、外を見つめたままのエレインへと微笑んだ。

「本日のお見合い相手がいらっしゃいました。
 お相手はアストラット侯爵家三男、ルーファウス様です。ご準備を」

要件を短く伝えると、イアンは彼女が席を立つのを待つ。
今日もまた、美辞麗句で塗り固められる日々が始まるのだ。
窓の外、ふと目をやった枝の上に二羽の鳥が留まっているのが見えた。
寄り添いあって囀ったかと思えば、遠い空の彼方へと並んで飛んでゆく一対。
あの鳥のようになれたならば。あの人と二人、遠くへ。
恋物語にありがちな愛の逃避行を夢想するも、幻は刹那に消えた。
今あるこの状況こそが自分の選んだ運命なのだ。

「はい、今行きます」

エレインは無理やりに、けれどそれを感じさせないよう笑顔を作った。


※エレインのアフターストーリー前編。
ただしユノスは報われない。
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