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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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少女は迷っていた。
これから自分が立つ舞台は、自分を狙う魔の手が迫っていることを知っていた。
もしかしたら他の誰かを巻き込んでしまうかもしれないことも。
それでも行かなければならないことを知っていた。
人々の目に映る不幸な終焉を砕かずにはいられない、己の衝動。
ただそれだけが彼女を舞台へと押し上げる。

「……」
(主よ。緊張しているか?)

傍らに控える緑衣の男が、不安げに俯く少女へと声を掛ける。

「大丈夫です。行きましょう」

笑顔を作って、少女は先を見つめた。
重々しい扉の前、深呼吸ひとつして少女は足を踏み出した。






荘厳な扉がゆっくりと、音を立てて開く。
その先に立つのは一人の少女。
金糸の髪はそのままに、白を基調としたドレスの上に青の鎧を纏い、
どこか落ち着かない様子で、けれど背筋は伸ばすその姿は
当主というよりは発表会に出された子供のようだ。
裾を一礼すれば、皆々手を叩き少女を迎え入れ、
拍手に押し出されるかのように、少女は会場に用意された小さな壇の上へと向かう。

会場に集う客人は皆一様に少女へと目を向けた。
視線に含む感情は様々。
興味、羨望、哀憫、嫉妬――どれもが少女にとっては重々しい。
これらすべての期待になど応えられるはずもない、少女はそう感じていた。
感じていても、いたとしても彼女は期待に応えられるように動かねばならない。
例えふりであっても、彼らの上に立ち、立派に振舞わねばならない。
若干18歳の少女が背負うには重すぎた。

それでも舞台が脚本通りに動き始める。

壇上には、小さな台と「演説」と書かれた台本。
控室で何度も目を通したそれは、目の前の観客たちに自分を認めさせるための台詞群だ。
一文字一文字を丁寧に、感情をこめて読み上げれば、
人の心をつかむことができるであろうその言葉。
最初の一行を辿り、声に出す。

「こ……この度は、遠路はるばる、お、お集まりいただきまして、ま、まことにありがとう、ございます。
 私が、その、ただいまご紹介に預かりました、エレインと申します」

わずかに声が上擦った。
実に拙い幕開けに、少女の顔が見る見るうちに青ざめる。
人前に立つのが苦手な少女からすれば、見知らぬひとりの前でも緊張するというのに
ましてや200人もの観客の前で何かを話せと言われても
言葉は詰まり、表情も強張ってしまう。
震えを止めるためにと、ぎゅっと拳を握りしめる。
視線の先、細い指には兄から渡された「剣持つ黒鳩」が刻まれた指輪が嵌っていた。
カメロットの当主に与えられる指輪。これを自分がつけていていいのだろうか。

(……たくさん考えた。悩んだ。そうして見つけたことがある……)

少女は顔を上げ、大きく息を吸った。
そして、吸い込んだ息を全て吐き出して、再度呼吸を整えると
怯えが消え、自然と顔も前へと向いた。

「率直に申し上げますと、私は今日、この場をもって、
 カメロット家当主となることを辞退するつもりでした。
 私には不相応な身分だと、私では力不足だと思ったからです」

自然と形になった台詞は、台本とは異なるものだった。
観客たちの表情は変わらない。きっと、同じように考えていたのだろう。
『私がいなくても、私以外の誰かがなればいい』
『私のほかに、もっとふさわしい人がいる』
この場にいるだれよりも、エレイン自身が脳裏に浮かべ、口にし続けた言葉だ。
だからこそ、その場の誰もが無反応であったことを気にも留めない。
彼女は台詞を続けた。

「皆さんの記憶にも新しい出来事ですが、
 私がここに――ランスブルグに戻ってきたあの日、
 私たちが逢ったのは私たちが英雄と崇め、讃え、敬愛したその人でした」

思い出す、6月の晴れた日。
奇しくも兄が生まれたその日に、故郷を襲ったその人を浮かべる。
この会場にいるだれもが目に焼き付けたであろう惨状と、偉大なる建国者の姿。

「彼女のように、力ある人が上に立てばきっと、カメロットも立派な家となるでしょう。
 十年前に起きたと言う凄惨な事件を乗り越え、かつての威光を取り戻すことも可能でしょう」

自分の知らないところで起きた、悲しい事件。
兄の運命を変えた日、それは分家と呼ばれる各一族たちに衝撃を与えはしたが、
しがない町医者の娘だった自分の身には遠く、当時気にも留めるはずがなかった事件。
成長した今もまだ、自分とは関係のない事のように思えるそれを
さも知っているかのような口振りで平然と語って見せた。
少女は卑屈だ。
記憶を失い、平穏な日々と切り離されてからというものの、
彼女は自分を冷静に、客観的に、自虐的に見つめていた。
実の両親の死も知らず、実の兄の存在も知らず、自分が何者なのかもわからず、
周りに振り回されてばかりの自分を疎んですらいた。

「――――私は、ひとりでは無力です。
 政経に携わったこともなければ、学もない。
 お裁縫もお料理もお兄さんに負けてます。
 得意なことなんて、片手で数えても指が余る程です。
 
 こんな私が当主なんて、荷が重いと。決めつけていました」

自嘲染みた台詞。
視界の端に映った兄が凄まじい剣幕で自分を睨んでいることに気付き、
思わず苦い笑みがこぼれ出す。
自分でも笑ってしまうほど、自分は不甲斐ない。
理解しているからこそ逃げ出すべきだったのではないかと自問し続けた。
そして、答えに辿り着いた。

「ですが、それは違うのだと知りました」

凛と前を向き、はっきりと言い切る。
卑屈な言葉を吐き続けていた少女の変化に、
退屈して視線を逸らしていた観客達が目を向ける。
息を吸う。
少女はただ、頭の中に浮かび上がってくる「答え」を吐き出した。

「ひとりでできることなんて、最初から限られています。
 ――だって、人は生まれる前から誰かの手助けなしでは生きてはいけないのですから。
 誰かと共に生きていくことを、私たちは当たり前すぎて忘れてしまっているのかもしれません。
 ……私の回りにも、いろんな人がいます。
 背中を押してくれる人、背中を守ってくれる人、
 隣に立ってくれる人、遠くから見守ってくれる人。
 この場にだって――私を知らない人がいる。私を知ろうとしてくれている人がいる。
 自分でわかっていないだけで、誰の隣にも誰かはいるんです」

一呼吸。

「長くも短い一年半の旅の中で、私は知りました。足りないものは補い合えばいい。
 一人では弱い力でも、ふたり、三人と合わせていけば、より大きな力となります。
 数が増えれば増えるだけ、強大でコントロールが難しくなるでしょう。
 それでも、難しいだけです。正しく向き合えば正しく使いこなせる力です」

力強く、想いの籠った言葉に、会場が静まり返る。
客人達は言葉以上に少女の決意と、それに対する覚悟が伝わった。
どう評価しても「良」とは言えない力のない少女であるはずなのに、
その姿には女王騎士にも似た美しさが宿っていたのだ。
言葉を紡ぎだすことすらできぬまま、ただ、皆が少女を見る。

「だから――どうか皆さん、私をあなた達の「当主」にしてください。
 カメロット家ではなく、あなた達の。
 そして、力を貸してください。皆さんの力があれば、私はそれだけで百人力です。
 代わりと言うわけではありませんが――私はあなた達を護ります。
 これから襲い来る脅威から、必ず」

そう、少女が言い切ると、観客達は喉に閊えていた息を呑み込み、
刹那、惜しみない拍手と歓声が会場を包む。
一人の少女の、一人語りにも似た「挨拶」に心震わせた人々が
ひとつの「答え」を見つけた瞬間でもあった。
その目には会場に入った時に渦巻いていたあらゆる感情が排除され、
ただ目の前に立つ「当主」の姿を映していた。

「最後に、最後にひとつだけ失礼いたします」

歓声の上がる会場に、必死に声量を上げてそう告げると会場の一点にエレインは目を向けた。
視線の先、自分を見て微笑んでくれていた初老の男性。
自分を見つけ、育て、騎士の道へと導いてくれたその人を見て、

「――ありがとう、「お父さん」。私、頑張るよ」

その日一番の笑顔を向けた。


※自分で書いてて恥ずかしい文章って、筆が進まなくなるのです。
執筆期間約4カ月になるところを根性で描いたので変なところ大目かもしれません。
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