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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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「それじゃあ、村を守ってくれたのは領主さまの……」
「ええ。あの引き籠りくんが前線出て戦ってたのよ」

時刻は午後8時。
楽しかった宴も終わり、普段祭りでしか使わない大鍋が空になると、
後片付けをする男達以外は揃って帰路についた。
ムジナたちは子供たちに気に入られて、それぞれの家に厄介になることになり、
エレインも兄夫婦と共に家に帰り、風呂にゆっくりと浸かって現在、
懐かしき我が家のリビングで寛ぐ彼女にブドウジュースが一杯、手渡される。
村のワイナリーで造られた上質で甘みの強い葡萄を丁寧に絞ったジュースは
この村の第二の特産品として近隣の村々にも好評だった。
久し振りの味にぱたぱたと喜びを隠しきれないエレインを見て、
葡萄色の眼の女性がくすりと笑みを零す。

「ユノスは元気そうでした?」
「相変わらず不健康そうな顔だったわ。ついでに超不機嫌。
 とはいえ、ぼっちゃまたちが来てくれて助かったわ~。おかげさまで被害は畑だけ」
「そうなんですね。良かった、いつもどおりで。
 でも被害者0なんて奇跡のようですよ……カリーナさんだって怪我もないし」
「そりゃ、素敵な旦那さまが守ってくれたもの。無事に決まってるわ」

カリーナと呼ばれた女性は自分のグラスにワインを注ぎ、
笑みを浮かべて幸せそうにしている義妹を見つめる。
領主の息子たる彼の名を呼び捨てられるのはこの子とあの人くらいね、と脳裏で呟き、
深い紅を湛えるそれに口をつけた。

「ま、あのヒトは『トマト祭り用に育ててた苗が半分やられた』って不機嫌そうだけどね。
 例の襲撃騒ぎで花火大会も今年話にしようって話になってるし……ま、仕方ないけど」
「お兄さん、毎年トマト祭り楽しみにしてますから」
「ビートくんはトマト祭り覇者だからねぇ。あのピッチング能力あれば当然か」
「ええ。……なんであんなに正確に投げられるんでしょうね」
「牧場やってれば自然となる、って前に言ってたわよ。……あ、そうそうそれでね」

話題は流れるように先の戦いから町の噂話に。
義姉の楽しそうな顔を見ると自然と笑みがこぼれて、どんな話も楽しく思える。
町の掲示板とも呼ばれる母親似なのか噂話が大好きなこの女性は、
時間も気にせず次から次へと話題を変え、町の変化をその口で紡いでゆき、
エレインの知らざる1年半の空白を満たしていった。


その反面、エレインの中には不安が残り続けていた。
半ば押し付けられるように与えられた地位と、己の未来。
第一階層に住まう貴族「カメロット家」の当主という分不相応な肩書き。
いっそすべてを投げ出したい、肩書きのない「エレイン」という少女に戻りたい。
優しい兄や義姉と共に、この牧場で平穏な日々を過ごしたい。
そして……
一つを願えば、数珠を繋いだように欲求と願望があふれてくる。
そして、それらを抑えなければならないことに対する苛立ちが己に積もってゆく。
気づけば少女の顔には暗い影が落ち、義姉の話も耳に入らなくなっていた。
そんな妹の様子に、義姉が気付かぬはずがない。

「エレイン、どうしたの?」

優しく、どこか不安げな声色に顔を上げれば、
カリーナの心配そうな表情がエレインの目いっぱいに移る。
ようやく自分がどういう表情をしていたのかを理解すると、
他人に心配をかけさせまいと、そう思い込む傾向のある彼女は反射的に答える。

「あ、えっと、なんでもないよ、なんでも……」

その言葉に、カリーナは軽く拳を握り、

「こら。あんたの悪い癖よ。ちゃんと話しなさい」

こつん、とエレインの額を小突く。
小突かれた場所を押さえてエレインがカリーナを見上げると、
カリーナは腰に手を当ててじっと彼女を見下ろしていた。

「ほら、お姉さんに話しなさいな。嫌なことあったの?不安なの?」
「私……」

この人に話していいのだろうか。
一抹の不安と、彼女の答えを聞きたくないという自分勝手な感情に挟まれ、言葉が詰まる。
エレインは再度、姉の目を見た。
どこまでもまっすぐと、突き刺さるような視線。対なす葡萄色の中に自分が映っている。
いいの、だろうか。
彼女の中の不安がわずかに拭い去られた。

その時だった。

感知したのは、まず、音。
どぉぉぉん、と何かが破壊される音が遠く聞こえた。
花火を打ち上げた時と似た音だ。だが、火薬の量が違う。

「なに?いったい何の音?」

カリーナが慌てて窓辺に近づき、それを確認しようとする。
エレインも彼女と共に窓辺に行き、窓を開くと
遠く、広場のある方向から薄く細い煙が上がっているのが視認できた。
火薬などこの街にはそもそも用意がない。
それこそ祭りの季節にでもならなければ調達すらしない。
しかも女王騎士の襲撃により祭り自体も延期になっている現状、
他の街に火薬を調達になど行く理由などなく、そこから考えられる最悪の結論は――

「――敵の残党……?」

そこに行き着いた瞬間には、エレインの身体は窓枠を飛び越えていた。

「エレイン!?」
「お姉さん、家から一歩も出ないでください」

冷静に義姉に指示を送ると、エレインは小さく「おいで」と呟く。
瞬間、彼女の頭上に小さな光が生まれると、
呼びかけに答えたかのように1対の鉄の犬が彼女の手に収まる。
幻銃――彼女がそう呼ぶ、彼女の武器。
両の手に握りしめると、彼女の中の渦巻いていた感情が静か、平行へと還る。

「それと、お兄さんと一緒にいて。そうすれば安全だから、絶対に」
「あんたはどうするの!」
「私は――」

一瞬、彼女の顔が翳る。
自分はどうするのか。これから向かう先に何があるかわからない。
敵襲かもしれないし、違うかもしれない。
けれど、行かなくてはならないと自分の中で誰かが叫んでいる。
『行かなくては後悔する』『何のためにここにいる』
そう、聞こえた気がした。

――そうだ、私には守らなきゃいけないものがある。

エレインは目を閉じる。
深く息を吸うと呼吸を止め、少し間をおいてから吐き出す。
開いた目はまっすぐと向かうべき方向を定め、一点の曇りもなかった。

「行く。そして戦う。それが私の役目だから」

振り返らずに答えると、少女は夜の中を走りだした。
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