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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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冒険者の酒場『針刺星』
現在改装中のアクエリオ支店の一室には5人の男女が一人の男を待っていた。

一人目――燃え盛る赤髪の女。腕を組み目を閉じて来るべき人物を待つ姿は威厳さえ感じられる。
二人目――女から3つほど離れて座ったのは赤髪の美丈夫。足を組み直すと一房だけ伸ばした髪をくるくると弄っている。
三人目――美丈夫の斜め前に座るのは線の細い青年だ。本を読みながら時折ため息をついている。
四人目――青年の隣に座るのは東洋風の佳人。切れ長の目をさらに細め、退屈そうに欠伸をひとつ。
五人目――女の正面には紫のゴシックドレスを纏う少女。手元に呼び出した球体生物を撫でて無表情。

皆が皆、暇を持て余すかのように何かを待っている。
刻一刻、時間が迫る。
誰もがその時間を待ち侘び、誰もがその一人を待ち兼ねている。

と、そんな時、扉が音を立てて開く。
扉の向こうには黒い魔導装甲を身に纏った一人の青年。
青空色のマントをたなびかせ、腰に愛用のアイスレイピアを下げてやってきたのは
彼らをこの場に呼び付けた張本人――アーサー・カメロット当人だった。
彼が部屋に足を踏み入れると、5人の視線が一度に彼へと集う。
アーサーはゆっくりと席の前へ。すぐに壁の時計へと目を遣ると、一息の後に彼は続ける

「――定刻だ。これより入室するものの意見、及びこの場にいないものの意見はいかなる理由であろうとしないものとする」

店の人間により、外から部屋の扉が閉められる。
それを確認するとアーサーは静かに響く声で宣言する。
 
「これより円卓会議を執り行う」



 * * *


「まず最初に、遠路はるばるアクエリオまで来てくれたことに感謝する。長旅は疲れただろう」

労いの言葉をかける彼だが、その表情は冷たく、視線は冷たく突き刺さるかのように鋭い。
隙を見せない青年の姿に何処か嫌悪感とは異なる何かを感じ取りながら、一人が挙手。
部屋にアーサーが入ってきてから延々と暗い表情を見せ続けていた青年が口を開く。


「失礼ながらアーサー様」
「まずは名乗れ。話はそれからだ」


冷たく切り返すアーサーに、青年は聞こえない程度の文句と小さく舌打ち。



「……申し訳ございません。私はドゥムノニア家当主代理、ユノスと申します。ふたつ、アーサー様にお伝えすることがございます」
「言え」



ユノスと名乗った青年は、アーサーに会釈をすると、隣にいる佳人を示す。



「この者、名をシオンと言います。私の護衛を任じられているものです。本来円卓会議には部外者の立ち入りを禁ずる仕来たりがあるとお聞きしておりますが、このまま在席させてもよろしいでしょうか?」
「別に構わん。好きにしろ」
「有り難うございます。また、この場に来ることができなかった我が父の意見書を提示したいのですがこちらは」
「破棄しろ。この場にいないならば僕に意見することは許さない」
「…………かしこまりました」
 
用意してきた意見書をシオンに渡すと、シオンはそれを瞬き一つの間で切り刻む。
その手さばきにレイスが感心したように――あるいは、新たな獲物を見つけたように見つめると、すぐにシオンは手元の凶器を隠した。
意見書の破棄を見届けると、アーサーは再度口を開く。


「では、本題に入る。この会議の議題は言うまでもないが、カークヴァイ氏の遺産の相続権、及びカメロット家の後継者選抜についてだ。結論から言うと、僕には相続の意思も家督を継ぐ意思もない。何故ならば、僕は八年前にカークヴァイ氏当人よりその権利を剥奪されているからだ」



そこでひとりが挙手。席を立ち丁寧に礼をするのはアーサーにほど近い席に座る少女だった。



「アーサー様、カリス家当主代理のマルクトです。よろしいでしょうか」
「発言を許可する。言え」
「ありがとうございます。カークヴァイ様の遺書には後継者は『力あるもの』と書かれておりました。更にはアーサー様はカークヴァイ様の孫にあたります。相続の権利は十分かと……」
「それについてはまた後程詳細を話そう、意見感謝する」
 
短い感謝の後に、アーサーは続ける。



「カークヴァイ氏は然るべき後継者候補を養子としてカメロット家に迎え、その人物に相続の権利を与えようとしていた。ならば僕は亡きカークヴァイ氏の遺志を尊重し、その人物に正しくカメロット家の財と土地、あらゆる権利を継承してもらいたい」

「失礼致します、アーサー様」
「マルクトか。発言を許可する」
「然るべき人物を養子に迎えるとおっしゃっておりましたが、カークヴァイ様にはアーサー様以外にも、エメリー様と言うれっきとしたお孫さまが。彼女の事は今回の件では触れないので?」
「……それについては、今答えよう。言ってしまうと、エメリー・カメロットには家督継承の資格はない。その証拠として9年前、彼女は他貴族の元へと嫁入りする予定だった。尤も、それもあの人が家を出たことで帳消しになってしまったがな」
「つまり、エメリー様は元より継承の権利がなく、この件とは関係がないと」
「その通りだ」



断言すると、アーサーは話題を「姉」から逸らす。



「さて、その人物についてだが、実際に会ってみたんだが実に騎士として優秀な奴だ。幼いながらにカークヴァイ氏が認められるのも頷けるほど、今では立派な騎士となっていた。奴ならば託せる。そう思えるほどのな」
「失礼致します、アーサー様。イアン・アヴァロンと申しますが、私からも1点質問をよろしいでしょうか」
「ああ、発言を許可する」
「畏れながら、後継者に相応しきは『血の系譜』であるかと。我らアヴァロン家は長らくカメロットと共に在り続けてきました。故に、願わくば後継者はカークヴァイ伯の血を継ぐアーサー様、貴方であってほしいと私は願っております」
「……そうだな。それならば話そう」



赤髪の美丈夫、イアンの言葉に重々しく頷いてアーサーは語りだす。



「そもそも、僕が最有力候補として選ばれている理由が、イアンが言ってくれた『血の系譜』――つまり、僕がカークヴァイ氏の血縁者であると言う事だ」



一息。表情がより一層、冷たくなった。



「しかしながら、その考え自体が間違っている。何故なら僕は、カークヴァイ氏の血など微塵と引いていないからだ」



長らく告げられる事の無かった真実が、彼の口から告げられた。
瞬間、場の空気が凍りつくほど、彼の目には冷たく、鋭く、あまりにも静かな感情が研ぎ澄まされていた。
赤髪の女騎士――レイスがアーサーを睨みつけ、声色を強める。



「質問……否、異議ありだアーサー」
「……レイスか、発言を許可する。答えろ」
「お前が、カークヴァイ老の血を引いていない?どういう事だ。お前は正しくウーリス小父の息子であるはずだ」
「ああ、表向きにはそうなっている。しかし実際は違う」



レイスの言葉にアーサーは淡々と返す。
普段見せるそれとはあまりにも違う今日の彼の表情に、レイスは驚きを隠し切れていない。
まるで殺意でも抱いているかのような冷たく突き放すような眼――どこか憎悪にも似た感情がそこに渦巻いているように見えて、
それに対して何かおぞましいものが心に襲いかかる。彼女は無意識にアーサーを恐れていた。
そんなレイスの心中に察することなく、アーサーは口を開いた。



「各家の者は知らないだろうが、カメロット家には分家とはまた異なるもう一つの家と繋がりがある。彼らは古くよりカメロット家の影であり、代理であり、いざと言う時の身代わりだった。僕は18年前にその家に生まれ、そしてカメロットの子として育てられてきた」



言葉を止め、何かを憂うように目を伏せる。



「その家の名はカリブルヌス。お前たちも知っているだろう?カメロット家によく来ていた医者の一族。僕の父は、カークヴァイ氏の体調管理を行っていた担当医、エクター・カリブルヌスだ」



告げられた名に、ざわめく。

カークヴァイ・カメロットの担当医であることもさることながら、分家全員が彼の告げたその医者の名前を知っていた。
怪我であろうが病であろうが、目の前で苦しんでいる人間がいれば迷わず救う、そんな男だった。
貧富の差も関係なく、平等に接する様は、語り継がれてきたコルリ施療院の伝説を思わせるほど。
事実彼も、彼の一族もまたその伝説に触れ続けてきたが故にそうなったと語り、彼らの家の紋章もまたコルリの紋を肖り「麦穂に抱かれる鳩」が描かれていた。
その医者がだ。
あろうことか本家の血族に当たり、さらには眼前にいる青年の父親だと言う。



「――どういうこと、ですの」



マルクトの声が震えていた。無表情であるにもかかわらず、奥底から言いきれない感情が漏れ出したかのように、声を振り絞る。



「エクター様……あの方がアーサー様の父親?納得がいきませんわ。貴方があの方の息子であると言う証拠はどこにあったと言うんですの?」
「……ここに今は亡きエクター医師の手記がある。ここに僕が息子であると言う事と、カークヴァイ氏の選んだ後継者候補についてが詳細に記されていた。なにより、8年前の事件発生前にカークヴァイ氏当人および血縁上伯父であるウーリス氏の口からその事を告げられている。詳細は手記の写しを用意したから各自読んでほしい」
「そんな……」



アーサーが丁寧に手記の写しを渡していく。
古ぼけた革製の手帳を広げると、そこにはただ延々と一人の男の人生の断片がつづられていた。
本家の子供が死産したが故に息子を手放すことになった悲しみ。息子の体が弱いことが判明し、主治医として傍にいることを許された喜び。息子の成長を見守りながら、新たに生まれた娘をいとおしむ親心。患者として接してきた多くの人との語り合いの記録。
全3冊の彼の手記は、彼がある事件に巻き込まれて死を迎えるその前日まで書き綴られていた。
アーサーが一つの項目を示す。
そこにつづられていたのが、アーサーを養子と言う名目でカリブルヌス家に戻し、新たな「後継者」を養子としてカメロット家に引き取るという内容。息子に対するあまりにも酷な扱いへの怒りが書きなぐられていると同時に、「後継者」に対する内容もふんだんに書き記されていた。



「――悪い、当主さんとやら、俺もひとつ聞いてもいいか?」
「確かシオンと言ったな。構わない」
「ありがとよ。……俺はこの家の関係ってのは詳しくはしらねェが、この手記に書かれている内容、これを読む限りだとよ、後継者候補として本家に引き取られるのはあんたの……」
「……ああ。その手記に書かれている通りだ」



アーサーは皆がある程度読み終わったことを確認すると、「後継者」についてを話しだした。



「そこに書かれている後継者についてだが、『彼女』は実に立派に成長してくれた。精神面に若干の不安要素はあるものの、16歳にして天誓騎士となり、更にはここにいるレイスと真っ向から戦い、撃ち倒した。祖父の認める『力ある者』としてこれほどふさわしい人物はいないだろう。そして僕も、『彼女』が新たな後継者者としてカメロットに戻ることを心から望んでいる」



元より用意されていた台詞を、ただつらつらと並べただけの口上。
それを言い終えた後に、アーサーは思う。
――この言葉を言い終えたとき、僕はあいつとの繋がりを否定できなくなる。
過去を肯定し、今まで姉と呼び慕い続けてきた女性との関係が「赤の他人」となってしまった今、
最早戻る事は出来ない。そのつもりもない。
心の奥底に一抹の後悔を残したまま、彼はその名を告げた。



「新たなる後継者の名は――エレイン。エレイン・カリブルヌス。僕の、たった一人残された血の繋がりのある家族だ」




 * * *


ここで、アーサーが騒動発覚から今までの2ヵ月間、ラッドシティにいながら行ってきた裏工作についてを語っておこう。
まずはじめに彼が懸念したのは領地についてだった。カメロット家直轄の領地は現在各分家の人間が交代に治めている。
この現状をあまり芳しく思っていない家もある事を事前に聞いていたアーサーは、領地を分家ではない他の家に貸し与えることで一時的にではあるが場を凌ぐことを思いつく。
そこで選ばれたのがアロンダイト家と呼ばれる城塞騎士の一族――アーサーの学友、ウォルラス・アロンダイトの家だった。
学生時代から兄貴風を吹かせていたウォルラスはこれをあっさりと承諾。堅物の父親を熱意と情熱と暑苦しい男の友情話などで丸めこむことに成功する。
次に選ばれたのはオドラン家だ。当初の予定ではまた異なる家を探すつもりだったアーサーであったが、予想外の出来事が発生する。
それこそ、姓こそ違えどまごうことなき実妹、エレインとの再会だった。
最初はただの初対面の女と思ってはいたが、彼女の所持品の中に偶然「麦穂に抱かれる鳩」が刻まれた指輪があったことで正体に気付く。
運がいい事に運び屋の知人がオドラン家にひいきにしてもらっていたらしく、仕事のついでにオドラン家に手紙で接触を試みた。
大まかな内容としては「エレインがカメロットの正統な後継者であること」「数年後には当主としてカメロット家に戻る必要がある事」
このふたつに関してを丁寧に文書に起こし、運び屋に直接渡してきてもらうように手配した。
すると意外にも返答は彼の望むとおりの結果へと転がる。
「元よりエレインは親元であるカメロットに返す予定だった」「それまでに必要な事があると言うならば、どんな事でも協力しよう」
これにより領地の問題は解決した。同時に、「エレイン・カリブルヌス」を後継者として仕立て上げるための準備が始まる。

最初に用意したのが父エクターの手記だ。かれこれ数年間大切に持ち続けてきたその手記には、自分とエクターが血のつながった親子である事、
そしてエレインが当主として祖父と呼んでいたその人に認められていた事が克明に記されている。
また、エレイン自身が所持している指輪を見せれば彼女の出自については問題なく全員が認めるだろう。
次にエレインに当主の素質があると言う事を裏付けるため、彼は自ら剣を交えた。結果、彼女が勝利することとなる。
さらに決定的なものとするために「分家最強」と呼ばれるレイスとも戦わせる。勝てずともレイスを喜ばせる戦いさえすればそれでいい。それくらいの気持ちだった。
が、予想をはるかに超える善戦の末、見事エレインは「分家最強」を倒してしまった。これは良い意味で想定外だった。

あとは簡単だ。姉・エメリーが当日、針刺星に近づかないようにと一つ仕組むだけ。
ラッドシティでの彼の拠点――古恋る鳥の階段修復に付き添ってもらう、たったそれだけでいい。
当人には「今住んでいるところを見て来てほしい」と言っておけば、心配性の姉は生活環境のチェックのためにもラッドシティに向かうだろう。(現に今、彼女はラッドシティにいるのだ)
ついでにエレインの厄介払いをしておけば準備は整う。
主役のいないまま、会議は静かに始まったのだった。

 * * *




会議が始まり、1時間半ほど経過した。
たった1時間経過しただけで、彼らの目の前にはアーサーが2ヶ月かけて掻き集めた資料の束と、予想だにしなかった本家の裏側。
詳細に書き記された資料を目に通し、ユノスは半ば呆れたような眼でアーサーを見た。
これだけの資料と口実をよくもまあ2ヶ月で綺麗にまとめあげたものだ。どれだけ継ぎたくないんだ。そんな表情だった。



「ここまで話せば、僕がカメロットを継ぐ意思がない理由もわかってくれただろうか」
「――否が応にもわからせるつもりなんだろう、本家様。性格悪いな、ホント悪い」
「ああ、最初からそのつもりだ。そして、元より僕の意見に反論させるつもりもない」



思わず口から漏れ出てしまった皮肉を気にも留めず、ユノスはアーサーをじっとりと見る。対するアーサーは平然と、冷静に言葉を返した。
変わらぬ無表情でマルクトは資料を置く。
ふぅ、と小さく息をつくと、頬に手を当ててわざとらしくアーサーを見る。



「酷い話。つまりあなたは、自分の妹を生贄にして逃げるのでしょう?」
「その通りだ。……とは言え、あくまでカメロット家の後継者にはならないと言っているだけだ」
「と、仰いますと」



アーサーの言葉に反応したのはイアンだ。
彼が好奇の眼差しをアーサーに向けると、気付いたアーサーは丁寧に答えた。



「僕はこの先、然るべき時がくれば、カリブルヌス家の子としてカメロットを支えていくつもりだ。継ぐべき家が違う、たったそれだけのことだ。お前たちとはまだ暫く縁があることになる」


更にシオンが疑問を重ねる。



「だけど、その新しい後継者様……エレイン様ってのはまだランスブルグには戻らねェんだろ?」
「天誓騎士として修行中の身だからな。最低5年は帰れないだろう。まあ心配する事はない。カメロット家で学んだあらゆる知識は僕から奴に叩き込んでおいてやる。兄として、それはもうじっくりと」
「……さいですか」



口調や態度からなんとなく、この青年の妹に対してどう接していくのかをシオンは理解した。
この青年は有能な妹を心の底から羨んでいる。そして、自分では成り代われない場所に立っていることを心の何処かで怨んでいる。
自分にも身に覚えのある事だ、とシオンは思い返す。故郷に残した両親と、旅に出た妹の姿を脳裏に浮かべた。
質問が止まると、アーサーは最後にと付け加えて話しだす。



「僕とエレインが不在の間の領地の管理についてはもうすでに手は打ってある。現在エレインの養父兼後見人として彼女の身を預かってくれているオドラン家、および僕の知人のアロンダイト家に領地を期限付きで貸し与えることになった。どちらの家も古き良き城塞騎士の家系だ。実力もあるし、統治も問題なく行ってくれる」
「お、アロンダイト家か。あそこは確かに実力者ぞろいだ。己もよく手合わせしてるぜ」
「オドラン家と言えば第二階層にいる貴族でしたっけ?確か数年前のお家騒動で娘さんを亡くされたとか聞いていましたが……」
「ああ、そのなくなった娘さんと言うのがエレインに似ていたらしい。オドラン氏もそれであいつを引き取ってしまったんだとか」
「偶然が重なってこうなったってか。よく出来た偶然だなおい」
「まったくだね。うまく事が運び過ぎって言うかさ」
「……」



各々がそれぞれの感想を述べる。最早、反論する者などいない。
全員の反応を見て、アーサーは確信する。これで終わるのだと。
同時に思う。これから地獄のように自由な日々が始まるのだと。
カメロットを継ぐ事はなくなったものの、問題は山のように残っている。現時点、何一つ知らない妹に全てを話さなければならないし、そのうえであらゆる情報・知識を教えなければならない。
それでも、彼はようやく解放されたのだ。



「納得してくれただろうか。まだ反論があると言うならば、あらゆる証拠を突きつけたうえで返してやろう」

堂々たる態度でアーサーが全員に問う。

「……異議なし、です」
「異議なし」
「まァ口出しするようなことじゃねェけど、俺も異議なし」
「異議はありませんわ」
「異議なしだ。……あの嬢ちゃんが当主様かよ、最高じゃねぇか!」

議題に対する結論はレイスの喜々とした表情で締めくくられ、アーサーは静かに宣言する。

「それでは――カメロット家後継者にはエレインを指名。この結論を持って円卓会議を終了する」

全てが終わった。


 * * *

会議終了の1時間後。アーサーはラッドシティに戻ってきていた。
とにかく疲れた。精神的にかなりやばい。そんな事を考えながら、重い足を動かして家路につく。

(頼んでおいたあの話……オドーはうまくやってくれていただろうか)

実は、会議に何があろうとエレインを参加させたくなかったアーサーはある事をエレインに頼んでいた。
それは、『古恋る鳥』の階段修復。
『針刺星』副店長にしてアーサーの友人である星霊術士を筆頭に力自慢が集った修復チームにエレインを叩きこんだのだ。
ついでに姉が――エメリーが何者かに狙われている可能性があると法螺を吹き込んで、「これは極秘任務だ、秘密裏にあの人を護衛をしろ」と命じたところ、『極秘任務』という単語になにかときめきを感じたらしいエレインは目を輝かせてこれを承諾、喜々として修復作業に参加していった。
本当のことを言ってしまうとエメリーには護衛など必要ないほどの強力すぎる主(マスター)がいる。
我が妹ながら愚かな奴だ、これからこの頭の悪そうな妹に一から物事を教えなければならないとなると頭も痛くなる。
少しばかり痛くなった頭を押さえて、アーサーは深くため息をついた。
その時、

「アーサー!」

人気のない道に声が響く。顔を上げれば、そこには彼女が立っていた。
月明かりの下でもなお目映い曙橙色の丸い瞳が自分を見ている。
ああ、ようやく「帰って来た」か。安堵の表情を浮かべ、アーサーは少女に近づいた。
ところが、少女は随分と怯えた様子でぴるぴる震えながらアーサーの背後に隠れた。

「アーサー、なんかアーサーがいない間にのれんっぽい頭の人と変なモヒカンの人たちがいっぱい来て階段なおしてったんだけど!あれ何。アーサーの知り合い?」
「……ああ。結局来たのか、モヒカン共。あいつら見た目の割に結構仕事人間でいいやつなんだよ」
「Σ知り合いなんだ!意外だな何か……」
「まだ終わってないのか?」
「……まだのれんの人はいるけど、モヒカンの人たちはさっき帰ってった。『ひゃっはー!仕事は終わりだ、これから一杯いこうぜー!』とか『仕事の後の一杯は格別だよなぁ!』とか言ってたから、たぶんお酒でも飲みに行ったんじゃない?」

全身から驚きを放出している少女は、家の方へ警戒の眼差しを向けている。
思えば人見知りが激しい方の彼女の元にあの連中はキャラが濃すぎたか。とささやかに後悔したところで
アーサーは背筋を伸ばし、少女を呼んだ。

「ポー」
「ん?」
「ただいま」
「……ん、おかえり」

ようやく、長い一日が終わった。

※というわけで、古恋る鳥の階段復活です。(そっちの方が重要)
 どこぞの星霊術士曰く「ディティールさえこだわらなければ階段くらいすぐに作れる」とのことだったので。
 『針刺星のジェバンニ』の異名は伊達じゃなかった。そしてありがとうモヒカン達!
 え?エレイン?あの子は最初から何も知らないまま現時点に至ります。自分が継ぐとか考えてもいませんよ。

 

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