蒼空

その日、とても珍しいことが起きました。
あのお兄さんが、私が大嫌いだと豪語するお兄さんが、
私の家にやって来てこう言った。

「しばらく世話になるぞ」

私、殺されるんじゃないかと思いました。

詳しく話を聞いてみると、依頼の相談をするのにここの方が近いから
あと私が近隣住民に迷惑かけてないか確認のため、晩ご飯だけ食べていくとのことだった。
（相変わらずお兄さんは素直じゃないようです）

「よ、よかった……私てっきり」
「てっきり？」
「あ、いえ！その……家主さんと喧嘩したのかなぁ、って……」

思わず漏れそうになった本音を必死に変換して、
首を傾げるお兄さんに慌ててそれっぽい理由を告げた。
すると、お兄さんは傍目からもわかるくらいのしょんぼりオーラで俯いて

「……そんなところだ」

寂しそうに呟いた。
どうやら近からず遠からずだったようです。
後で聞いた話によると、暫く依頼で家主さんがいなくなってしまっていたそうで。
それで寂しかったのかもしれません。

とにもかくにも今日はうちでご飯を食べること決定のようなので、
腕によりをかけてご馳走することにしました。
今日の晩ご飯はお魚料理！
実はいいお魚を安値で手に入れてたので、
きりっと辛い、山椒唐辛子水煮にしようと調味料も揃えちゃってました。
こんな日に来るなんて、お兄さん運がいいなぁ……

材料の都合上、一人分しか用意できないけど、
料理作るときって見るだけでお腹一杯になっちゃうからちょうどいいかな？
あ、レシピは秘密のアレンジが入っているから教えられません。
ちょっと時間はかかっちゃったけど、我ながら会心の出来映えに大満足！
お兄さんにも気に入って貰えると思ったのですが、一口食べただけで

「こんなもの食えるはずがないだろうが！死ぬかと思ったぞ！」

と怒鳴られてしまいました。
ぅぅ、辛いの苦手だったのかなぁ……

けど、そのあとつくってもらったお兄さんのご飯美味しかったです。
いいお婿さんになるだろうなぁ……



■後日談
（アーサー特製あり合わせの食材ポトフを食べた後）

「所であの料理、一体何だったんだ？」
「え？白身魚の山椒唐辛子煮込みですよ」
「あのドドメ色の物体がか！？」


※エレインの日記より一部抜粋。
　本人無自覚ですがかなりの料理下手の味音痴。
　料理は好きだがおぞましく下手で、材料が謎の化学反応を起こすことに定評があります。
　ちなみに場所はマギラントのとある一軒家。
　持ち前の豪運でトントン拍子に話が進み、無事に空き家を借りることができました。