忍者ブログ
TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


焦っていた。
森の主の予言を聞いた時から心の奥に澱んでいた感情が
今、彼の心の大半を侵食している。
頼れる親族たち、思い出の場所、陽気な友人たち、尊敬する恩師……
どれだけが奪われ、何が残っているのか。
未だ薄く煙の立ち上る都市の上部を見つめ、最悪の事態を想像する。

――そんなことは、ない。

不安は拭い去れないが、今はそう信じていることしかできない。
心中にじくり、と闇が広がるのを感じていた。

「大丈夫?」

と、耳触りのいい声が彼を思考の海から引き戻す。
顔を向けると、隣をついて歩いている少女がアーサーの顔を覗き込んでいた。
ああそうだ、一人で悩んでいても仕方がないんだ。
ゆるく笑顔を見せて、「大丈夫だ」と、短く返事をすると、
石畳の街を、ただただ続く長い道の先を見つめる。

今できることは二つ、祈ることと、当てもなく歩むことだけだった。


「……アーサー?アーサーか!」

石畳の道を足早に進む彼を呼びかける者がいた。
金属と鎖のこすれる音、重い足音、低くもよく響くアルトの声。
足を止めて振り返れば、彼の眼にようやく安堵の色が見えた。
「頭を垂れる一角獣」の紋章が刻まれた、燃えるような赤を鎧う女騎士。
レイス・アヴァロンと彼女の率いる師団、「煉獅子」がそこにいた。

「レイス!やっぱりお前は無事だったんだな!」
「おうよ!しっかし、今日戻ってくるなんて思いもしなかったぜ」

笑顔を浮かべる女傑はアーサーの頭を飼い犬を可愛がるように撫でまわす。
普段ならすぐに「恥ずかしいからやめろ」と抵抗するアーサーだったが、
今日ばかりは彼女の手を拒めないまま、じっとレイスを見ていた。
その様子から青年の心境を察したのかレイスはひとしきり撫でると手を放し、
後ろに控えていた師団員たちに命を下すと、アーサー達とともにその場を後にした。

 * * *

普段なら鉄を打つ音が八方から聞こえてくる南都の街も静けさに包まれていた。
通りを歩けど聞こえるのは子供の泣き声や、不安や不信。
どことなく重苦しい空気に、連鎖するように人々の顔色も暗くなる。

「この辺はまだましな方だな……しかし、ひでぇ有様だ」

愚痴るレイスに小さく同意し、アーサーはちらりと隣の少女に目をやる。
周りに呑まれてしまわないだろうか、と手を伸ばせば、珍しく先に握り返される。
やはり不安なのだろうか、と彼女の手を握り締め、視線を街へと戻す。
それに気付いたのか、レイスはアーサーに隠れるように歩く少女の姿に目を止める。
見たことのない少女ではあるが、容姿や仕草になぜだか覚えがある。
脳内書館を巡り巡って、答えの記された一冊を手にしたとき、レイスは口を開いた。

「そういや、そっちの嬢ちゃん。噂の彼女か?」
「かっ……、……彼女じゃ、ない。というかなんだ噂って!」
「手紙で散々のろけてたじゃねぇかよ。最近甘えてきてくれる~とか」

口角を吊り上げにやにやと笑み、からかうような口調でレイスは問いかける。
肯定できない悲しさと少女から向けられる視線の痛さに
アーサーは自然と明後日の方を向いていた。
その微笑ましさと初々しさがこの重苦しい雰囲気とあまりにも不釣合いで、
レイスは自然と笑みを浮かべていた。

「ま、そういうことにしておくか。己(おれ)はレイス・アヴァロン。
 見ての通り騎士やっててな、自警団まとめてるもんだ」
「……ポーシアです。よろしく」
「おう、ポーシアだな。しっかし、アーサーについてくるとか珍しいな。試合すっか?」
「おい」

警戒を解ききれないポーシアは声のトーンを落として名を告げる。
そんな彼女をもの珍しそうに見て、嬉々として武具を構える女傑。
アーサーが止めに入らなければ、その場で一戦始めるような輝きぶりだった。
そんな会話に加え、世間話を交えた行軍中の事態の説明を終えると、
ようやく話を本題へと進める。

「……それで、どうなんだ?ほかの連中は」
「今んとこ、アヴァロンとカリス、ドゥムノニアは無事だ。
 さっきカリスの嬢ちゃんから話は聞いてきた。
 もともと第三階層(した)に屋敷や拠点を構えていたのもよかったな」

一息、

「だが、ティンタジェルやほかの家についてはわからねぇ。
 あいつらは第二階層(なか)にいたってのもあるし、
 己達が向かおうとしたときにはすでに大階段は制圧されてた。すまねぇ」
「……気に病むことはない。必要なのは、これから何を為すかだ」

真剣な表情で、そのまま二人は近隣の復興援助についてを話し出す。
完全に置いてけぼり状態のポーシアはというと、つまらなさそうに二人を見ていた。
したやらなかやら、あっちやらこっちやら、傍から聞いて手わけがわからない。
しかも表情は妙に堅苦しくて、ついでに空も鈍色。退屈に輪をかけた退屈が彼女を襲う。
二人の話が終わったのは、退屈極まったポーシアがアーサーの服の裾から手を離し、
いっそこのあたりの探検でもしてきてやろうか、とその辺の脇道に入ろうとしていたところだった。
アーサーが拗ねた彼女に宥めるような優しい声で名を呼ぶと、
「長い、つまんなかった」とつぶやき視線すら合わさぬまま、ポーシアは彼の隣に戻ってきた。
随分と仲がいいもんだとにやついて、レイスが口を開く。

「とりあえずよ、こっちいる間はうちを拠点に使うといいぜ。
 親父もイアンもお前に会いたがってたし、顔見せるだけでも喜ぶぞ」
「そうさせてもらおう。それに、イアンはともかく、バルクさんには会いたいしな。ありがとう」
「気にすんなって、こまったときはなんとやら、だ」

にかっと歯を見せて笑うと、レイスは「仕事に戻るよ」と言い
短い別れの言葉の後に市街地方面に向かって歩き出す。
と、途中まで進んで振り返ると、思い出したようにアーサーへ。

「それとお前のダチの騎士の兄ちゃんと竜祈師の嬢ちゃん。
 これから東都に向かって、研究会の連中探してくるっつってた」
「ウォルラスとマユラか!……よかった、あいつら無事だったか」
「ま、そう簡単にはくたばらねぇよ。余計な心配はせず己達を信じろ。アーサー。
 仮にも傭兵貴族、裏社会の重鎮(アンダーボス)と呼ばれしカメロットの分家だぞ?
 少なくとも己は、首だけになったって戦い続けて見せるぜ」

そう言い残し、赤騎士は手を振りながら去って行った。


PR
Comment
name
title
color
mail
URL
comment
passward   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字


蒼空
design&photo by [Aloeswood Shrine / 紅蓮 椿] ■ powerd by [忍者BLOG]
忍者ブログ [PR]
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[09/03 ポー]
[09/01 アーサー]
[09/01 ポー]
[07/26 ポー]
[05/27 アーサー(背後)]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
アーサー&エレイン
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター