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TW3「エンドブレイカー!」内PC関係の雑記。

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「アンジュ?」
「ん?」

見慣れた姿を偶然街中で見つけて、アーサーは思わず呼びとめる。
普段と服装は違うものの、そこにいたのは妹分のアンジュだ。
とはいえ、実際は彼女の方が幾分も人生経験は豊富で、
今までにも何度か彼女に助言をもらっていたアーサーにとってすれば
この偶然の遭遇はなんらかの必然にさえ感じていた。

「……すまないアンジュ。ちょっと付き合ってくれ」
「へ、あ、う、うん。まあいいよ?」

ぎこちなく返事を返す様子に少しの違和感を感じながらも、
アーサーは彼女を連れて通りを歩いて行った。

「……と、言う訳なんだ」

数十分後。
町の大通りに面した喫茶店。一番奥の席に彼らはいた。
アーサーは事情を話し終えると眉尻を下げ、ため息をひとつ。
対面に座る少女は興味無さそうにタルトの苺をつついていた。
今までの話をまるで聞いていなかったかのような無関心ぶりで、
行儀悪く頬杖をついた少女は苺にフォークを突き刺した。
摘まみ上げるようにゆっくりと持ち上げると、紅玉色の視線がそれを追う。

「……ひとつ、聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「花は育てたことある?」

花?と漏らした後にアーサーは首を横に振る。
苺を見続けている少女からもため息が漏れた。
「あ、やっぱりか」「こいつダメだな」と言いたげに目を細め、
肘をついたまま、指先で摘まんだだけのフォークを揺らしながら言葉を続ける。

「じゃあ花がどうやって育つか知ってる?」
「ああ。品種によっては異なるが、大体は水と日光と土の質に気を配れば」
「そこまでわかってればいいよ」

知識だけはある男の言葉を遮り、少女は苺を頬張った。
口いっぱいに広がる甘酸っぱさを堪能しながら、少女は一瞬アーサーを見た。
目を丸くしている青年に向かい、少女は彼にフォークを向ける。

「だいたいの花はね、水をやり過ぎたら枯れるんだよ。根が腐って、そこからダメになる」
「その通りだな」
「恋も同じだよ」

一拍。

「アーサー、君はね、愛情注ぎすぎ。このままだと心が腐って死んでしまうよ?」
「…………それは」
「口答えに見合うだけの正論は持ってきてるんだろうね?」
「…………」
「都合悪くなると無言になるのは君の悪い癖だ。はっきり言いな」

ちぐはぐに言葉を並べ立て、持ち直したフォークに次の苺を突き刺して、少女は黙る。
ちらりと見た青年は今にも泣き出しそうな、親に怒られた子供のような顔をしている。
必死に言い分を考えているのだろうか、少女は次の苺を口に運ぶ。

「――――わからないんだ」

放り込まれる寸前に、彼の言葉が横切った。
食べるのをやめて、改めて視線を眼前の子供へと戻すと、少女は口を閉じた。

「どうすれば喜んでくれるかわからない。どうすれば傍にいてくれるかわからない。
 近付けばその分遠ざかって追いかければ逃げられて
 捕まえれば暴れられて愛情を示せれば殴られる。
 どうすればいいかわからないんだ」

つらつらと言葉を並べ立てた彼に、少女はようやく笑みを浮かべた。

「恋愛なんてわからなくてなんぼだよ。
 お互いなーんにもわからないまま始まるんだ。
 知りたいなら今から知っていけばいいじゃない」

そう言って、苺をもう一つ。
もっともらしい事を言っているにもかかわらず、アーサーは眉を顰めた。

「そう思ってキスしてもいい場所聞いたら殴られた」
「まずその思考回路をどうにかした方がいいかもね。
 昨今の男性と言うのはキスなんてそう簡単にはしないもんだよ?」
 ついでに言うなら、女の子にとってキスって言うのはもっと崇高で儀式的なんだよ」
「だが、両手が塞がってる」
「言葉が残ってる。耳元で愛を囁けばいい」
「十中八九殴られる」
「一割残ってるならいいじゃないか」

簡単に言いくるめられる。
くすくすと笑う少女を前にアーサーは肩を落とした。
「それが苦手だからやれないんだ」と言おうかと思ったが、数パターンの返し文句が想定され、
それに対する文句が何一つ浮かばなかったから黙りこむ。
少女はそんなアーサーの姿を見てにやつき、小さな袋を差し出した。
赤い布袋の存在に気付いたアーサーはそれを開く。

「これは?」
「ひまわりの種。まあ今から蒔けば夏には咲くんじゃない?」
「――育てかたなんて」
「教えてもらいなよ。彼女、君よりは詳しいはずだよ」
 
笑顔で言葉を遮る少女に、アーサーは困り切った表情のままそれを受け取った。
そこから先は他愛のない会話が続く。
最近の仕事のことだとか、噂に聞いた祭りの話、
今食べているケーキが美味しいなんて在り来たりな会話がしばらく続いた。
*       *       *

 
「今日はありがとう、アンジュ」
「気にしないでよ。じゃあね」

店先で別れたアーサーは、それなりの答えを見つけたのか
出会ってすぐの時と比べれば幾分かましな顔つきにはなっていた。
アンジュと呼ばれた少女はそんな青年の背中を手を振って見送り――

「あれ?ウサギの人。なにやってるの?」

呼び止められる。
少女が振り向いた先には烏羽色の髪の少女。
頭上にやる気十分な鷹のスピリットの乗っけて歩く彼女の名を呼ぶ。

「……やあ、アンジュ。ちょっとばかり君の姿、借りてたよ?」
「? また父さん関係?」
「そんなところさ。……いやぁ、ボクもすっかりあいつに似てきたなぁ」
「……身長15cmも違うのになんで間違えるのかなぁ?」

ウィッグとフードを取って、紅玉色の瞳の少女が笑う。
薄桃色の髪が肩先に揺れ、同時に少しばかり長くとがった耳が現れる。
少女はいつも通り無表情のアンジュに向かい笑顔を浮かべた。

『まったくだね』


※とりあえずワンステップ。帰ったらステ欄戻す!

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