蒼空

「古恋る鳥」から彼が消えて早２日が経過いたしました。
彼が今、どこにいるか、何をしているのかを知るものはおりません。
彼自身、何処へ向かうべきなのかわかっていないのですから
（だから思いつく場所を片っ端から歩き回っているのです）
誰も知らないのは仕方がないのでしょうが。
しかも、今の彼にあるのは目的のみで、
手段や方法、過程については脳裏から投げ捨てられてしまっているのです。

彼は考えました。
自分が何をしたのか、なぜこうなったかを考えました。
「さみしい」と言われたから傍にいようとした。
自分から甘えに来ない相手だからこちらから甘やかしにかかった。
彼からすればそれだけのことだったのです。

問題は彼が度合いを知らないことにあります。
スイッチが切と強しかない冷暖房、と例えれば良いでしょうか。
差がありすぎる０と１でしか選択しようとしていないくせに
自分では「そうあること」が普通であり正しいのだと認識しているのです。

そんな状態で思考を巡らせたところで結論が見えるはずもなく、
ましてや相手の心境も考えられない盲目的な彼には、
彼女の涙に自分が影響していることはわかっても
どの行為により彼女が「泣いて逃げる」という結論に至ったのか、
つまりは原因となった行動の判別ができるはずがなかったのです。
それでも考えました。
考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて、
考え抜いた末に投げ出しました。

「わからないなら直接聞けばいい」

こうして彼は溜まっている書類の整理すら捨て置き、
どこかに旅立ったなどという途方も宛てもない情報のみを頼りに
無作為無計画にも彼女を探しに旅立ってしまったのです。
おまけに「彼女を見つけるまで家には戻らない」などという誓約を自らに課し、
それに従ってこの２日彼女を探し続けているのです。
探している間に戻ってくる可能性を考えなかったのでしょうか。
本人は追いかけているつもりでも、端から見れば逃げ出したようにしか見えない。
互いの解釈に齟齬がある間は決して出会うことはなく溝は深まって行くばかりだというのに
それに気づけぬ彼の純粋さと言ったら実に愚かしいと、そう思いませんか？
純度の高いものほど毒の強まる。そんな話を思い出します。

さて、ここまで話した上で眼前の貴女に、わたくしは問いましょう。

「彼の居場所が知りたいですか？」

貴女の問いに、私は答えましょう。