多分誰と誰って書かなくてもわかるよね!
あ、最後の動画は背後がいつでも見られるようにって意味も込めてぺたん。
「…………つまんなーい」
会場を一瞥し、ステラは退屈そうに唇を尖らせていた。
襟元や袖口にフリルを施した上品なブラウスに、お気に入りの黒いスカート姿でパーティーにやって来た夜色の少女は
兄に言われた通り会場の隅でお行儀よく椅子に座らされている。
会場には彼女と同年代の少女もちらほらといるが、如何せん思考の幼いステラとはそりが合わず、だからと言ってより低い年齢の者もいない。
ステラからすれば、大人だらけのこの場所に居続けることは、自分に非がないにもかかわらず長い説教を聞かされ続けているのと同じだった。
ぱたぱたと足を揺らせて退屈を主張するも誰一人構ってなどくれやしない。
「つまーんないっ!」
「仕方ありませんよ。お兄様から指示があったでしょう?」
周囲の大人たちの視線も気にせず声を張り上げたステラを優しく制止したのは彼女の付き人だ。
足首近くまで伸びた髪は艶やかな烏羽色、瞳は翡翠に似た滑らかな碧色で、
女性にしては少し高めの身長とすらりと伸びる細い肢体は黒のパンツスーツにより殊更細く見える。
隣に座す少女の人形めいた愛らしさとは対照的に、
どこか庶民的な美しさを醸し出すその女性が、かつて舞台に花を添えていた歌姫、
ヴィヴィアン・ウィートリーであることに誰も気づいてはいなかった。
ヴィヴィアンは上目遣いで退屈を訴えるステラに微笑みかける。
「でもヴィヴィ先生、ここでじっとしてるのつまんないよ。
お庭に出ちゃダメ?さっきお庭を見た時にね、きれいな薔薇が咲いていたのよ!
赤い紅い薔薇なの、先生、薔薇の花好きだったでしょ?行こう、行こうよ」
「まあ、薔薇ですか?それは素敵ですわ。でも、まだ我慢していてくださいね。当主様がいらして、ご挨拶が終わったら見に行きましょう」
化粧っ気のないそばかすが残る顔に少女じみた微笑みに、
ステラも反論できなかったのか、渋々同意の言葉を漏らして俯いた。
監禁されていたに等しい彼女にとって、数少ない理解者たるこの女性の言葉は
実の父親の言葉よりも強く重く絶対だ。
ステラは仕方なく、どれが「当主様」だろうかと人の山を眺めることにした。
とはいえ、彼女はここに連れてこられただけで当主がだれかなんて知るはずもない。
ましてや当主が女性であることも、自分の兄がその当主と親しい間柄であることも、
ステラにしてみれば興味がないし、知る由もない。
せめておとぎ話のような、素敵なダンスパーティーだったならよかったのに。
深く息を吐き出したその時、一人の青年の姿が見えた。
(――――!あの人!)
声を殺して、視界に捉えたその人物をじっと見つめる。
幼い頃に枕元で語られた物語通りの容姿、風格。傍らの少女に向ける微笑みの温かさ。
人混みの中に見つけたその男に、ステラは喜びと同時に懐かしさと虚しさを感じた。
(王子様!王子様だわ!)
声に出しそうになったのをぐっと堪えて、青年を凝視する。
人を避けるように遠く、ゆっくりとどこかへと向かうその背を見つめ、
その人が自分の探し求めていた人だと確信する。
ステラはヴィヴィアンが眼鏡を外して余所見している間に
音と気配を極力消して、人の合間を猫のようにすり抜けていった。
灯りの少ない石畳の道を少女は走る。
牧場を出て5分、町に入った彼女はどこに向かうべきか把握できていた。
煙の上がっているのはどうやら町の入り口付近――昼に大宴会を行った広場がある方面だ。
まだ宴の片付けをしている人たちがいるかもしれない。
最悪の事態を想定しながらも、短い階段を飛び降り鍛冶屋の前を横切る。
ちょうどその時だった。
影が3つ、果樹園に向かう細道から飛び出してきた。
思わず足を止め、半歩下がると銃を構える。照準の先にいたのは――
「エレインちゃん!」
「フィリップさん!それに、ジェフリーさんにヴァージルくん!?」
名を呼ばれて、彼らの名を呼び返す。
彼女の前に現れたのはこの町の町長を務める老紳士フィリップ、
雑貨屋の主であるジェフリーと、図書館の管理者ヴァージル。
宴の席でも見た町民たちの姿に、エレインは銃口を下げた。
他に人の姿は見えないが、比較的運動の苦手な彼らがここまで逃げてこれたのだ。
きっと大丈夫、とエレインは脳裏で小さく呟いた。
だが、心配して覗き込んだ彼らの瞳には何故かエンディングは見えない。
あれだけの騒ぎがあったにもかかわらず、だ。
ならば心配はいらないのだろうか……複雑な気持ちでエレインは彼らの目を見続ける。
そんな彼女についで声を掛けたのは呼吸を整えていた雑貨屋の主だった。
「はぁ、こ、こんなに走ったのは、ひ、久し振りだよ……
ふぅ、……しかし、いったい、何がどうなってるんだい?」
ジェフリーは痛む脇腹を押さえ、深呼吸。
余程必死に走ってきたのか、額には脂汗が滲み、息も荒い。
彼に何かを訊ねるのはあまりにも可哀そうだと思ったのか、
エレインは優しく労いの言葉をかけて、他二人から状況を確認する。
「それで、他の皆さんは?無事に避難できてますか?」
「ほかのみんなは先に逃げてもらったんだ。ぼくらが最後だよ。
でねでね、みんなでお鍋洗ったりしてたら森の方から怪しい男が現れてさ、
そいつが突然ぼくの腕に書いてきたんだよ。逃げろって」
「怪しい男が……えっ、逃げろ?」
疑問が積み重なる。
怪しい男に襲われて、ならまだしも、「逃げろ」とはなんだろうか。
そもそもこんな時間に森の方からやってくる、ということ自体奇妙だ。
首をかしげて悩むエレインに、町長が情報を追加する。
「緑のローブを着た鉄仮面の男だったよ。このあたりじゃ見たことない人だったね。
なんかこう……見た目は怪しいけど妙に必死だったんで信じてしまってね。
私からも町のみんなに逃げるようにお願いしたんだ。
他の皆が逃げ終わった後に私達も広場を後にして、そのあとあの爆発があったんだ。
――彼が忠告してくれたおかげで、私達はあの爆発に巻き込まれずにすんだんだな」
不安に翳る表情にわずかな安堵を見せて、フィリップは息を吐く。
その男がどんな人物なのか、きっと「逃げろ」の理由も説明はされなかったのだろうが、
町長という地位の割に威厳のないこの老紳士は、
町で一番人と情勢を見る目があり、同時に信頼の達人だ。
彼の何かを直感的に見抜き、信頼するに値すると無意識のうちに判断したのだろう。
故に町民たちも男の――正確には町長の言葉を信じて動いたに違いない。
だが同時にエレインは思う。
男は何者なのだろうか。いったい何から「逃げろ」と言いたかったのだろうか。
そもそもなぜ爆発が起きる前に事態を察知したのだろうか。
あの爆発が起きた時、その男はどうなったのだろうか。
重ね続けた疑問の答えは今、どこにあるのか。それだけはエレインにもすぐに理解できた。
「……その人はどっちに?」
「村を出て……ボドミン村へ向かう街道へ出てったはずだよ。
エレインさんも行くの?さっき変な爆発もあったし危険だよ?」
来た道を指さして答えると、ヴァージルはエレインの瞳を心配そうに覗き込む。
紫を含む蒼の目には強い意志と、輝きが宿っていた。
「私は天誓騎士だもの。危険とわかってても行かないと」
凛々しく微笑むと、エレインは武器を握ったまま
エレインは彼らの来た道を視線で辿ると、町長たちに指示を送る。
「皆さんは家に帰って、家族と一緒にひとつの部屋にいてください。
何か武器になるものを持って……万が一の時には戦えるように!」
最悪の事態だけは避けようと思いながらも、警戒は怠らない。
不安と焦燥で逸る心を鎮めながら、エレインは走り出した。
この細道を突っ切れば大広場に――そして、現場に最速で着く。
――大丈夫、きっと大丈夫だ。
心の中で呟いたその時、
背後から「気を付けるんだよ」と弱々しい声援が聞こえた。
小さく笑って、彼女は加速した。
月も雲間に隠れ、心地よい風が暑さを殺ぐ、過ごしやすい夜。
アヴァロン邸にはすでに準備が整い、既に200人近い客人が集っていた。
カメロットの領地内でもアヴァロン領は「絶対的に安全」と言われているほど
治安が良く、且つ活気に満ち溢れた領地でもある。
犯罪検挙率の高さもさることながら、再犯率が多と比べ圧倒的に低いのが特徴的で、
それに最も貢献しているのがレイス・アヴァロンの率いる攻勢師団『煉獅子』だった。
構成員の半分以上が元犯罪者という悍ましき師団ではあるのだが、
経験者にして専門家たる彼らがいるがゆえに防ぐことができるものもある。
事実、アヴァロン邸に「剣の要塞」の称号を銘打ったのはかつて義賊を名乗っていた娘、
『煉獅子』副官パメラ・ランカンが「賊による屋敷への侵入方法」についてを講義し、
警備の穴という穴をすべて塞ぎつくしたためであった。
その甲斐あって、彼女の講義以降アヴァロン邸に潜入が成功した賊は一人としていない。
完璧ともいえる「鉄壁」に来客達も気を緩めているのか、
会場となった大広間は談笑する人々の声に満ち溢れており、
中には主役の登場を待たずに酒を飲み始める者や、
馬鹿笑いして売られた喧嘩を買っている奴らさえいた。
場末の酒場と紳士淑女の社交場が同居する異様な空間を一瞥し、
少女は重々しく息を吐く。
「なん、ていうか……貴族サマのパーティーって感じじゃねーっすよねぇ」
「たり前だろ。あのアーサーの家のパーティーだぜ?普通なはずがねぇよ」
少女の呟きに返したのは隣に立つ冒険者風の青年。
二人の服装は礼服に身を包む他の客と異なっており、
少女は東洋風の拳法着、青年は麻の上下に革鎧を纏った簡素な装備。
宴で行う模擬試合のために、という名目でこのパーティーへ呼ばれた彼ら――
ウォルラス・ガーフレットとマユラ・ケイは壁際に立ち、
自分たちを呼びつけた当人が現れるのを待っていた。
料理を盛った皿を片手に、自分たちとは違う「それ」らを見ながら
探すこともなく待つというのは至極退屈なことだった。
そんな退屈に飽きたのか、純粋に小腹が減ったのか、
マユラは皿に乗っていたフライドチキンに豪快に齧り付いた。
鼻をくすぐる香草の香りと肉の味に満足げに目を閉じると、
口の中の肉をじっくりと噛み締め堪能する。
「そーっすよねぇ、あのアーサー先輩のおうちですもんねー」
「まーな。って、なんだよマユラ、腹減ってんのか?」
「戦う前には腹ごしらえっす。うちのおじいも口煩く言ってますからねー」
「お、それは名言だな。賛成サンセー、俺も食うとすっかな!」
肉を飲み込んだマユラの指先が「次は何を食べようか」と皿の上で迷う。
ウォルラスもまた山のように盛っていたミートソーススパゲッティに
待ってましたと言わんばかりに食らいつこうとした。
そんな時、二人の目に一組の若い男女が目に入った。
少女は淡い薄紅のドレスの裾を揺らし、慣れないヒールで歩を進める。
その顔には一抹の不安。元々人見知りの少女からすればその場所は未知の領域だ。
雛鳥が親鳥の翼に隠れるように、指先でぎゅっと青年の服を掴んで離さない。
青年は青の礼服に身を包み、少女に寄り添い歩く。
普段の冷たい眼差しもまるで冬の泉のように静かで穏やか、
視線の先に少女へ気遣いの声を掛け、柔らかく微笑む。
さながら初々しい恋人同士(カップル)を思わせるその二人は
自らに声を掛ける人々と簡単な挨拶を終わらせるとウォルラスとマユラの前にやってきた。
「久し振りだな、ウォルラス。マユラ。二人とも元気だったか?」
(自慢だな)(確実に自慢しに来たっすね、アーサー先輩……)
青年の幸せそうで柔らかな笑顔を、二人は同一の意見と乾いた笑顔で迎えた。
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